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平成27年1月に高裁判決のでたヌーン裁判ですが、最終的に平成28年6月に最高裁判所で上告棄却の決定がされ、営業者側の無罪が確定しました。

この裁判は、もともとは大阪市北区でNOONというクラブを営業していた営業者が風営法違反で逮捕されたことを受けて提起されたものです。

理由はいろいろありますがせんじ詰めれば

「そもそもなぜ風営法にダンスが含まれるのか?風営法そのものが憲法違反なのだから逮捕される理由がないじゃないか」

という趣旨です。

最終的には憲法との整合性は否定されませんでしたが、ヌーンは”風営法でいうダンス営業”をしていたわけではないということで無罪となりました。

ここでしっかりと検討してみたいと思います。

 

地裁判決文はこちらをご覧ください

 

高裁判決文はこちらをご覧ください

この記事は、地裁判決、高裁判決をもとにクラブとダンスと風営法の論争について、裁判によってでた結論と経緯をできる限りわかりやすく説明しています。
もともとクラブとダンスと風営法について様々な意見がありました。
そのためこの決定には反論意見もあると思いますし、中には記載内容を面白く思わない人もいるかもしれません。

ユーザーの皆様にはぜひその点をご理解の上読み進めてくださいますようお願いします。

 

ヌーン裁判

憲法と風営法

風営法はわかりづらく、あいまいな法律であることはこのサイトでたくさん紹介しています。

その中でもダンスは「何をもってダンスなのか?」「なぜダンスが風俗営業なのか」に関しては長年不思議に思っていた人は多かったと思います。

これは後述する高裁判決で明らかになるのですが、そもそも風営法でいうダンスと現在のクラブでのダンスにはかい離があって、その変遷を検討する機会がなく風営法が放置されていたという理論構成になっています。

ヌーン裁判によって憲法22条1項の職業の自由、21条1項の表現の自由、31条の適正手続きに違反しているのではないかというのが争点になりました。

ただし、少し難しくなりますが憲法訴訟は通常は憲法判断回避の原則や合憲限定解釈によって立法府を尊重する傾向にあります。

結論から言えばヌーン裁判でも風営法の憲法違反は一つも認められることはありませんでした。

 

クラブ規制の目的

個々の争点を検討する前に、今回のヌーン裁判では意外な論点があぶりだされました。それがクラブ規制の目的です。

一審の地方裁判所判決では、クラブ規制の目的はダンスクラブの営業がわいせつな行為の発生を招くなどの性風俗秩序の乱れにつながる恐れがあるため規制が必要だという限定的な解釈をしています。

これはなぜでしょうか。

風営法はもともと性・射幸心(ギャンブル精神)・飲酒などの人の欲望に端を発する歓楽的・享楽的雰囲気を過度に醸成する営業に対して規制をするものです。

この中で、クラブ営業には射幸心はありません(射幸心はパチンコ店やゲームセンター、マージャン店などの規制目的です)。

また、飲酒に関してはもともとクラブ営業である3号営業は飲酒をさせることを要件とはしていないので含まれません。

そうすると最終的に残ったのは性に関する規制目的だということがその理論構成です。

 

規制薬物などは規制の目的外なのか?

地裁判決では規制薬物や周辺環境の悪化に関する規制は風営法のクラブ営業の規制の目的ではないとする判断がされました。

規制薬物に関しては確かにクラブでは使用や取引の実態は確認されます。

しかし直接の関連性が認められるわけではないし、例えばクラブでなくても深夜酒類提供飲食店というカテゴリーの飲食店でも散見されます。

にもかかわらず深夜酒類提供飲食店は風俗営業になっていないことをみると、クラブというだけで規制薬物の規制の対象になるとは言えないという理論構成です。

また、同様の理論から騒音問題や振動による周辺環境の悪化や粗暴事件の発生防止に関してもカラオケ店やライブハウスが風俗営業に含まれていないとの理由で直接の規制の目的にはならないとの判断がされました。

 

このように、地裁判決ではクラブ営業でのダンスに関しては論点が

①クラブ営業の規制の目的はもっぱら性に関する部分にフォーカスされたこと

②そのほかの周辺的な規制は論点から外された 

ところに注目してください。

 

職業の自由との衝突

風営法はダンス営業をしたいという国民の自由を規制するのですから当然憲法22条1項の職業の自由とは矛盾衝突が生じます。

ただし、当たり前ですが何でもかんでも自由を認めてしまえば無秩序になってしまいますので、職業の自由にも規制が入るのは仕方がありません。

判例では重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であれば規制は許されるとしています。

では、ダンス営業を規制するほどの公共の利益とは何でしょうか?

今回の判決では善良な性風俗秩序を維持するとともに少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するということが公共の利益だとしています。

職業の自由との衝突に関しては、クラブ営業の実態を踏まえると公共の利益のために必要であって、かつ、合理的な措置であるということから合憲性は否定されませんでした。

 

表現の自由との衝突

また、クラブ営業は大音量での音楽を流し、そこにダンスを楽しむ人があつまる営業です。そこには表現者がいて、受け手(お客)がいるということです。

そう考えると、これら表現者の”表現したいという自由”を奪っているのではないかという疑問が浮かびます。これが憲法21条1項の表現の自由との衝突です。

ただし、風営法のクラブ規制についてはダンスや音楽の表現そのものを規制するものではなく、営業自体を規制するものなので原告団の理論構成はややピンボケしていると判決では指摘しています。

もちろん規制の内容次第ではダンスや音楽が表現の自由の保護の範疇に入るものもありますが、そもそも表現の自由は絶対的なものではなく、公共の福祉による必要かつ合理的な制限を受けるものです。

例えばクラブ営業に規制がなく、防音設備ももうけずに住宅街にじゃんじゃん出店されたら市民はたまったものではありません。

そのためダンスや音楽は表現の自由の制約に当たるとしても、立法目的からすれば必要かつ合理的なものであるとの判断で合憲性は否定されませんでした。

 

適正手続きとの衝突

国民が安心して生活するためには行政が適正な手続きをすることが必須です。

あいまいで抽象的なことで逮捕されたりすれば国民はおどおどしてしまいますし、国家は恣意的(思い付きや我田引水な思惑)で活動することになってしまいます。

そのため仮に規制をするのであれば何がよくて何がダメなんだというラインをはっきりしなければなりません。これが憲法31条の適正手続きとの衝突です。

風営法のダンスに関しては、何がダンスなのかについては議論されることがこれまでなく、なんとなくクラブでワーギャーするのがダンスだとされてきました。

しかし、前述のようにクラブ規制の目的は性に関連するもので、わいせつ行為の発生を防いで性秩序を保つのがその目的であるとしています。

そこからすると、”クラブ営業で男女の出会いが促され、性秩序が守られないような営業”であれば想像できなくもありませんし、ある程度は限定されてきます。わかりづらかったり不明瞭であるとまでは言えません。

そのため憲法31条の適正手続きについても合憲性は否定されませんでした。

 

 

これですべての争点の違憲性については認められることにはなりませんでした。

では、なぜここから無罪判決になったのでしょうか。それにはクラブ営業の規制の目的が”性に関するもの”であることがキーワードになります。

もう少し見てみましょう。

 

風営法での”ダンス”とは?

前述しましたが、風営法のダンス営業の規制の目的は性にフォーカスしたものと地裁判決では示されています。

私の事務所は以前西麻布にありましたので六本木・西麻布界隈のクラブ営業の性風俗秩序がどれだけ乱れていることはわかっているつもりです。

全体的にクラブの雰囲気がいいじゃんいいじゃんという気にさせてしまうのです。その意味でクラブ営業の規制の目的が性秩序の維持であることには私は異論がありません。

ただし、性秩序が乱れるのはダンスだけに起因しているのかと言われればそうでないことも事実です。

乱れているところはクラブだけではなく、バーでもラウンジでも乱れているところは乱れているものです。

ここで注目するべきは、この”性風俗秩序の乱れにつながる営業”について
単に抽象的なものにとどまらず、現実的に起こりうるものとして実質的に認められる営業を指すものと解するのが相当である

としているところです。後述しますがこれがのちの高裁判決では否定されることになります。

 

 

ヌーンのダンスは、”風営法上のダンス”か?

ヌーンでのダンスは音楽のリズムに合わせてステップを踏んだりそれに合わせて手や首を動かすというものが大半だったとされています。

お客同士で体を触れ合わせるわけでもないし、来客者に露出度の高い服装の着用を促すなどのことさらにわいせつ行為をあおるようなこともありません。

つまり広義でいうダンスではあったかもしれませんが、性風俗秩序の乱れにつながるものではなかったということです。

この過程でヌーンでのダンスは”風営法でいうダンスには該当しない”との検討結果が出ました。

そして、風営法上のダンスには該当しないのであればそもそも風俗営業3号営業”クラブ営業”には該当しないのだから、違法性はないとの結論に至るのです。

違法性がないのであれば、当然無罪ということになります。

 

 

高裁判決との違い

第一審ではこのような形で無罪になりましたが、検察側の控訴の申し立てがあり、舞台は高等裁判所に移されます。

結論から言うと無罪であることには変わりはありませんし、第一審判決の論旨そのものは採用されましたが、部分的な判断に誤りがあったということになりました。

結論は変わりありませんが、ここで詳しく見てみましょう。

ここはかなり細かい判断なので疲れてきた方は、飛ばしてもいいと思います。

地方裁判所の判決を高裁判決で指摘されたからと言っても、それは論争の過程においてあぶりだされる論点が高次的に出てきたからであって、どちらに優劣があるというわけではありません。
裁判官の独立が認められている以上、制度的に一審、二審とあるかもしれませんが、では一審が下で二審が上と言われればそれは違います。

 

ダンス営業の規制の目的は”性”だけではない

まず、第一審ではクラブ営業の規制の目的は、せんじ詰めれば性風俗秩序の乱れを防止することにあると限定的に解釈していました。

これに関して高裁判決では大筋で認めつつもダンスと飲食によって刺激される人間の欲求は性だけではなく、ついては規制薬物の蔓延や粗暴事案も含まれるとしました。

そしてこれらの事案については風俗環境の保持の一要素として副次的に認められるので、規制の目的から外れるということにはならないとしています。

 

もともと風営法は昭和23年に前身の風俗営業取締法が制定されることに起因します。立法当時はダンスホールが売春の温床となりやく、さらに当時は売春防止法がありませんでしたので規制されたものです。

しかし、現在ではお客にダンスをさせることによってすべての営業形態に性風俗秩序の乱れを起因させると考えるのは無理があります。

そうなると、一律にクラブ営業に対して規制をすると必要のない範囲にまで規制を広げることになり、妥当ではなく、合理性に欠けると判示しています。

 

 

クラブは営業開始前に内容を想定することが困難な営業

前述しましたが、第一審では性風俗秩序の乱れにつながる営業について「単に抽象的なものにとどまらず、現実的に起こりうるものとして実質的に認められる営業を指す」と示していますが、高裁判決ではこれに異論を発しています。

許可申請は営業開始前にするのですが、風営法上のダンス(性風俗秩序の乱れに関連する営業)になるかどうかは実際に営業を開始してみないとわかるわけがありません。

お客の質や営業によってはそのようになるかもしれないし、そうならないかもしれないのは当然でしょう。

にもかかわらずそこまで限定的に解釈してしまうとすると、本来規制すべき内容の営業とそうでない営業に事実上の差を生むことになって相当ではないということです。

許可を要する営業の範囲と無許可営業として処罰される営業の範囲は同一とするべきなのです。

 

”風営法でのダンス”を具体化

地裁判決では具体化されていませんでしたが、高裁判決では風俗営業取締法立法時に想定されたダンスを文章化しています。

ー男女が組になり、かつ、身体を接触して踊るのが通常の形態のダンスをさせる営業は、それ自体の社交性の強さから言って、飲食をすることと相まって、具体的な営業の態様次第では男女間の享楽的雰囲気を過度に醸成するおそれのある営業類型と言えるー(原文まま)

として、このようなダンスであれば規制の必要はあるとしています。

一方で、これに該当しないダンスであれば、それは規制の対象になるようなものではなく、一般的行為の範疇ということで規制が必要であるとは考えないと示しました。

 

現在のクラブでは、男女が組になって身体を接触するなんてことはありません。

そんなことをお店が強要したらすぐにニュースになってしまいます。

クラブ内での性風俗秩序は乱れきっていると思っていますが、(クラブ関係者には申し訳ありませんが)仮にナンパをしたりされたりという場を提供するだけではダンスには該当しないということです。

私は一瞬「なんて甘ちゃんなことをいっているんだ、高裁はクラブの現状を知っているのか」と思いましたが、それは”クラブと性”を結び付けた考えで、”ダンスと性”を結び付けた考えではないことに気づきました。

考えてみればクラブでナンパする人はダンスが目的でなく、ナンパできればどこでもいいのであって、ダンスに起因しているわけではありません。

その考えでは高裁の判決は妥当だと思いますし、これでクラブ、ダンス、風営法の論点は出そろったと感じました。

 

まとめ

今回は少し難しかったかもしれません。

時代は常に流れていますから、立法当時の規制目的が現代でも同様に通用するわけではありません。

規制の根拠が多様性に追いつかないとすれば、多様性によって規制になじまない営業形態が生まれる可能性があります。

にもかかわらず一律に規制されるのはおかしいじゃないかということです。

今回の判決を受けて、風営法は改正され、ダンスは風俗営業から外れました。

 

ただし、風俗営業から外れても遊興行為には該当します。そのため新たに特定遊興飲食店というカテゴリーが設けられることになりました。

これによって、今まではクラブ営業は法律上、深夜0時までしかできなかったのが、朝まで営業できることになりました。

 

しかし、特定遊興飲食店は許可要件は旧3号のクラブ営業許可同様に厳しいものです。

人的要件では経営に不適格な営業者は排除されますし、立地上の規制もあります。

照度に関しては既存のクラブ営業では考えられないほどの明るさが求められます。

そのため以前のクラブ営業をしていたお店が大手で喜んでいるという状態とは言えませんし、実際に機能しているかどうかは疑問です。

現状から言って、風営法改正前に騒がれていたほどのドラスティックな変化も感じられません。

 

これは個人的な意見になりますが、外部から見ればこの裁判が痛み分けの気がしないでもありません。

裁判の経緯を無にしないためにも、特定遊興飲食店の成功事例が待たれます。


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