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より転載

 

 

平成26年4月25日宣告 裁判所書記官 野村真吾 平成24年(わ)第1923号

 

判 決

金光 正年 昭和37年◯月◯日生

上記の者に対する風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)違反被告事件について,当裁判所は,検察官後藤信宏,同廣田麗理,弁護人水谷恭史(主任),同西川研一,同亀石倫子,同小林賢介,同我妻路人,同川崎拓也,同大畑泰次郎,同岩佐賢次,同髙山巌,同齋藤貴弘,同石垣元庸,同松尾洋輔各出席の上審理し,次のとおり判決する。

主 文

被告人は無罪。

理 由

第1 本件公訴事実

本件公訴事実の要旨は,「被告人は,大阪市北区中崎西3丁目3番5号において,設備を設けて客にダンスをさせ,かつ,客に飲食をさせるクラブ『NOON』を経営する者であるが,◯◯◯◯,◯◯◯◯らと共謀の上,大阪府公安委員会から風俗営業(第3号営業)の許可を受けないで,平成24年4月4日午後9時43分頃,同店内において,ダンスフロア等の設備を設け,不特定の来店客である◯◯◯◯らにダンスをさせ,かつ,酒類等を提供して飲食させ,もって許可を受けないで風俗営業を営んだ。」というものである。

第2 本件の争点等

1 関係証拠によると,本件公訴事実のうち,被告人が,当時,クラブ『NOON』(以下「本件店舗」という。)を経営していたこと,平成24年4月4日午後9時43分頃,本件店舗において不特定の来店客に酒類等を提供して飲食をさせる営業がされていたこと,本件店舗での営業につき,被告人が大阪府公安委員会から風営法2条1項3号所定の風俗営業(以下「3号営業」ともいう。)の許可を受けていなかったことが認められ,弁護人もこれを争わない。

2 しかしながら,弁護人は,(1)本件の罰条とされるもののうち,風営法49条1号,3条1項及び2条1項3号の各規定(以下「本件各規定」という。)は憲法21条1項,22条1項,31条に違反する無効なものであるから,被告人に対する処罰根拠はなく,また,(2)そもそも,被告人が本件公訴事実記載の日時場所において3号営業を営んだとはいえないから,いずれにしても被告人は無罪であると主張し,さらに,(3)本件公訴提起は,公訴権を濫用してされたものであるから無効であると主張する。したがって,この(1)ないし(3)の各点が本件の争点である。

3 当裁判所は,本件各規定をその規制目的に照らして合理的に解釈した結果,本件各規定が憲法の上記各規定に違反する無効なものであるとは認めなかったが,関係証拠を十分に検討しても,被告人が,本件公訴事実記載の日時場所において3号営業を営んでいたと認めるには,なお合理的な疑いが残ると判断したので,以下,その理由について説明する。

第3 3号営業の規制の目的について

1 風営法は,風俗営業を営もうとする者に対し,風俗営業の種別に応じて,営業所ごとに,都道府県公安委員会の許可を受けることを義務付け(3条1項),人的事由及び物的事由の双方から許可基準を定めるとともに(4条),許可を受けないで風俗営業を営んだ者に対しては,2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し又はこれを併科することとしている(49条1号)。そして,風営法2条1項は,その3号において「ナイトクラブその他設備を設けて客にダンスをさせ,かつ,客に飲食をさせる営業(同項1号に該当する営業を除く。)」を,風俗営業の一つとして定めている。このように,本件各規定は,3号営業を無許可で行った者を処罰することとしてその規制を図っているが,これは,設備を設けて客にダンスをさせ,かつ,客に飲食をさせるという営業が,その具体的な営業態様によっては,わいせつな行為の発生を招くなど,性に関わる風俗秩序(以下「性風俗秩序」という。)の乱れにつながるおそれがあることから,一定の基準を満たした場合にのみ営業を許すこととして,善良な性風俗秩序を維持するとともに,併せて少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止することを目的とするものと解される。

2 すなわち,風営法は,「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し,及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため,風俗営業及び性風俗関連特殊営業等について,営業時間,営業区域等を制限し,及び年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとともに,風俗営業の健全化に資するため,その業務の適正化を促進する等の措置を講ずることを目的と」し(1条),その規制の対象となる風俗営業として,3号営業を含む6種類の接待飲食等営業(2条4項,1項1号ないし6号)及び2種類の遊技場営業(2条1項7号及び5号)を規定している。そして,その営業内容のほか,風営法の立法及びその後の改正経緯を踏まえると,これらの営業は,その具体的な営業態様によっては,性,射幸,飲酒等人の欲望に端を発する歓楽的,享楽的雰囲気を過度に醸成するおそれがあることから,規制の対象とされたものと考えられる。このうち,本件で問題となった3号営業を含む接待飲食等営業は,射幸とは関わりがない上,風営法2条1項4号所定の営業のように飲酒等を要件としないものも含んでいることからすると,性に関わる部分に重きを置いて規定されたとみるのが自然かつ合理的である。その上,風俗営業者に対しては,客室の内部に見通しを妨げる設備を設けないこと等の技術上の基準(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行規則〔以下「施行規則」という。〕8条)に適合するように営業所の構造及び設備を維持すべき義務を負わせ,深夜における営業禁止,営業所内の照度,営業所周辺で生じる騒音又は振動,清浄な風俗環境を害するおそれのある広告又は宣伝等についての各規制(風営法12条ないし16条)を加えているほか,これとは別に,3号営業の営業所に関しては,客室一室の床面積を66㎡以上,ダンスをさせるための客室の部分の床面積をおおむねその5分の1以上とし,営業所内の照度を5ルクス以上に維持しなければならない(風営法4条2項,施行規則8条,30条1号)などの規制を設けている。 以上のような風営法及び施行規則の規定内容を踏まえると,風営法は,3号営業につき,その内容に照らして,具体的な営業態様によっては,わいせつな行為の発生を招くなど性風俗秩序の乱れにつながるおそれがあることを理由に,風俗営業として規制しているものと解するのが相当である(なお,3号営業に関する照度規制は,深夜における飲食店営業等よりも緩やかなものとされているが〔風営法14条,32条2項,施行規則30条1号,76条〕,これは,3号営業については客室における照度を暗くして営業をすることが予定されているためであり,深夜における飲食店営業等よりも性風俗秩序を乱すおそれが小さいという趣旨ではない。かえって,そのような営業内容自体が性風俗秩序の乱れにつながるおそれがあるため,風俗営業として規制するというのが法の態度であると解される。)。そして,このように性風俗秩序の乱れにつながるおそれのある場所に少年を近付けさせないことによって,併せてその健全な育成に障害を及ぼす行為の防止を図っているといえる。

3 他方で,3号営業に関する規定の中に規制薬物の使用や取引を防ぐことを目的に含んでいるとうかがわせるものはなく,3号営業の内容と規制薬物の蔓延との間に一般的な関連性が認められるわけでもない。また,3号営業から生じる騒音又は振動による周辺環境の悪化については,風俗営業ではない深夜における飲食店営業に対しても同様の騒音又は振動規制が課されていること(風営法32条1項1号,2項,15条,施行規則74条6号),カラオケ店やライブハウスのようにその営業態様から一定の騒音を生じることが想定される営業が風俗営業とされていないことなどからすると,この点が,3号営業を風俗営業として規制する本質的な理由と解することはできない。さらに,営業所内における粗暴事案の発生防止についても,そもそも風営法の目的である「善良の風俗と清浄な風俗環境」の保持という文言にそぐわない面がある上,深夜における酒類提供飲食店営業が,飲酒の影響によって同様に粗暴事案の発生を招くおそれがあるにもかかわらず,風俗営業とされていないことからすると,3号営業が風俗営業としての規制を受ける根拠を積極的に基礎付けるものとはいえない。

4 よって,本件各規定は,「設備を設けて客にダンスをさせ,かつ,客に飲食をさせる」という営業の内容が,その具体的な営業態様によっては,歓楽的,享楽的な雰囲気を過度に醸成し,わいせつな行為の発生を招くなど,性風俗秩序の乱れにつながるおそれがあることから,一定の基準を満たした場合にのみ営業を許すこととして,業務の適正化を図ることによりその弊害の発生を防止し,善良な性風俗秩序を維持するとともに,併せて少年の健全な育成に障害を及ぼす行為の防止を図ることを目的とするものと解される(なお,風営法2条1項4号の規定と対比すると,3号営業のうち「客に飲食をさせる」行為は,性風俗秩序の乱れを助長するものとして位置付けるのが相当である。)。

第4 風営法2条1項3号所定の「設備を設けて客にダンスをさせ,かつ,客に飲食をさせる営業」の意義について

本件各規定による3号営業の無許可営業規制は,職業の自由(憲法22条1項)を制約するものであるほか,後記第5の2のとおり,場合によっては表現の自由(憲法21条1項)の制約にもなり得るものである。そうすると,本件各規定の規制対象となる営業については,これらの憲法上の権利を不当に制約することのないように,規制目的との関係で必要かつ合理的な範囲に限定すべく,慎重に解する必要がある。このような観点を踏まえて,前記第3のような本件各規定による規制の目的のほか,当該規定が刑罰法規の構成要件となることを考慮して検討すると,許可の対象とされる3号営業とは,形式的に「ナイトクラブその他設備を設けて客にダンスをさせ,かつ,客に飲食をさせる営業」との文言に該当することはもちろん,その具体的な営業態様から,歓楽的,享楽的な雰囲気を過度に醸成し,わいせつな行為の発生を招くなどの性風俗秩序の乱れにつながるおそれが,単に抽象的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められる営業を指すものと解するのが相当である。そしてこのようなおそれが実質的に認められるかどうかは,客が行っているダンスの態様,演出の内容,客の密集度,照明の暗さ,音量を含む音楽等から生じる雰囲気などの営業所内の様子,ダンスをさせる場所の広さなどの営業所内の構造設備の状況,酒類提供の有無,その他性風俗秩序の乱れにつながるような状況の有無等の諸般の事情を総合して判断するのが相当である。

第5 本件各規定の憲法適合性について

1 憲法22条1項適合性について

(1)本件各規定は,3号営業に該当する営業を風俗営業として許可制の対象とし,無許可でこれを営んだ者を処罰することとしており,憲法22条1項によって保障される3号営業を営もうとする者の職業の自由を制約するものである。  この点,職業の自由の制約が是認されるかどうかは,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量した上で慎重に決定されることになる。そして,職業の許可制は,法定の条件を満たし,許可を与えられた者のみにその職業の遂行を許し,それ以外の者に対してはこれを禁止するもので,単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて,狭義における職業選択の自由そのものに制約を課すという職業の自由に対する強力な制限であるから,その合憲性を肯定するためには,原則として,重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する。また,それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく,自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的,警察的措置である場合には,許可制に比べて職業の自由に対するより緩やかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によってはその目的を十分に達成することができないと認められることを要する(以上につき,最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)。

(2)これを本件についてみると,本件各規定は,その具体的な営業態様から性風俗秩序の乱れにつながるおそれが実質的に認められる3号営業を規制することにより,善良な性風俗秩序を維持するとともに,併せて少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するという,いわゆる消極的,警察的目的を定めるものと解されるが,これが国民全体にとっての重要な公共の利益に当たることは明らかである。そして,風営法は,3号営業について,その営業を行う適格を疑わせる事由を人的欠格事由,性風俗秩序の乱れや風俗環境の悪化につながるような営業所の構造等を物的欠格事由として定め,これらに該当した場合は許可を与えないこととしているが,これは,上記のような3号営業の性質に鑑みると,適性を欠く者が経営に参入したり,不適切な設備を設けたりすることによってその営業内容が不健全なものとなり,性風俗秩序の乱れが現実化する事態が容易に想定されるからである。このような事情に照らすと,風営法が3号営業について許可制を採用したのは,上記の重要な公共の利益を保護するため必要かつ合理的な措置ということができる。また,このように容易に想定される弊害を防止して業務の適正化を図るためには,上記のような事前の規制を行うことが必要不可欠であって,営業の内容及び態様に対する事後の規制によってはその目的を十分に達成することができないと認められる。なお,無許可営業を行った者に対して刑罰をもって臨むこととしていることが,目的との関係で均衡を欠くということもできない。

(3)弁護人は,風営法が性風俗関連特殊営業については許可制ではなく届出制を採用していることとの均衡から,本件各規制が過剰な規制であると主張するが,本件各規定による規制自体が過剰なものといえないことは上記のとおりである。また,規制の程度は,単に許可制か届出制かという形式のみではなく,その実質的内容をみて判断すべきところ,性風俗関連特殊営業に関しては,許可の対象とすることでその営業を公認したかのような印象を与えることが適当ではないという政策的な理由から届出制が採られているにすぎず,実質的にはより厳格な規制の下に置かれていると認められるから,この点に関する弁護人の主張は理由がない。  そのほか,弁護人は,客室における床面積の規制に関し,規制目的との関連性を問題にするが,本件では当該規定の適用が問題となっているものではない上,客室に一定の広さを求めることは,それ自体,歓楽的,享楽的な雰囲気を過度に醸成することの抑止に資すると考えられ,規制目的との関連性があると認められるから,この点は上記判断に影響しない。

(4)以上によると,本件各規定による3号営業の無許可営業に対する規制は,重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であるとともに,職業活動の内容及び態様に対する規制によってはその目的を十分に達成することができないと認められるから,憲法22条1項に違反するものではない。

2 憲法21条1項適合性について

(1)本件各規定は,3号営業を営むという営業行為を規制するもので,何らかの表現行為を規制することを目的とするものではない。もっとも,3号営業の性質上,音楽を流すなどして,客がダンスをするのに適した雰囲気を醸成することが通常の営業形態として想定される。そして,3号営業を営もうとする者が,そのような雰囲気の醸成のために自ら客室において流す音楽の選曲や実施するイベントの企画立案を行うなどした場合,その内容によってはそうした行為が表現の自由によって保護される範ちゅうに含まれ得ることを一概に否定することはできない。また,3号営業の中で客が行うダンスについても,その程度からして単なる一般的行為の自由の範ちゅうにとどまるものが多いと解されるとはいえ,中には表現の自由による保障を受け得るものが含まれる可能性も否定することができない。そうすると,本件各規定は,3号営業を営もうとする者や,当該営業において客となる者の表現の自由に対する制約になり得るというべきである。

(2)憲法21条1項により保障される表現の自由は,憲法の保障する基本的人権の中でも特に重要視されるべきものであるが,もとより絶対的なものではなく,公共の福祉による必要かつ合理的な制限を受けることがあることはいうまでもない。そして,このような自由に対する制約が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは,目的達成のために制約が必要とされる程度と制約される自由の内容及び性質,これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決するのが相当である(最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁等参照)。これを本件についてみると,本件各規定の目的が重要な公共の利益である善良な性風俗秩序の維持にあることは前記のとおりであって,その達成のために性風俗秩序の乱れにつながるおそれが実質的に認められる営業を制約する必要性は高いといえる。他方,上記のとおり,本件各規定は表現行為の規制を目的とするものではない上,3号営業を営もうとする者や当該営業において客となる者の表現の自由に対する制約を伴う場合であっても,それはあくまで表現行為が上記のような性質を有する3号営業の中で行われる限度で課されるにすぎず,例えば,営業行為としてではなく同様のイベント等を行うことや,客が他の場所で同様のダンスをすることが妨げられるものではないから,本件各規定によって3号営業を営もうとする者や客がその表現行為に関して受ける制約の程度が大きいとはいえない。そうすると,本件各規定によって表現の自由が制約されるとしても,その制約の程度は必要やむを得ない限度にとどまるというべきである。

(3)以上を踏まえると,本件各規定は,表現の自由の制約に当たるとしても,重要な立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものということができるから,憲法21条1項に違反するものではない。

3 憲法21条1項,31条適合性について

弁護人は,本件各規定は,その文言からすると,性風俗秩序の著しい乱れが生ずる具体的危険が類型的に存在しないクラブにおける「ダンスをさせる営業」をも含めて一律に事前規制の対象とする点で,過度に広汎な規制となっており,また,一般人において,風営法の条文から具体的にいかなる営業が規制対象となるのかを読み取ることができず,刑罰法規としての明確性を著しく欠いているとして,憲法21条1項,31条に違反する旨主張する。  しかしながら,本件各規定による規制の対象となるのは,「ナイトクラブその他設備を設けて客にダンスをさせ,かつ,客に飲食をさせる営業」との文言に当てはまるのみならず,その具体的な営業態様から,歓楽的,享楽的な雰囲気を過度に醸成し,わいせつな行為の発生を招くなど,性風俗秩序の乱れにつながるおそれが実質的に認められる営業に限られるのは前記第4のとおりであるところ,このような解釈の下においては,本件各規定が規制目的との関係で過度に広汎な規制であるとも,その規制対象が不明確なものであるともいうことはできない。また,このような規制の対象となる営業は,その内容からして,一般人にとっても判断することは可能なものと解される。このことは,最高裁判所の判例(最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日大法廷判決・民集38巻12号1308頁,最高裁平成17年(あ)第1819号同19年9月18日第三小法廷判決・刑集61巻6号601頁等)の趣旨に徴して明らかである。  よって,本件各規定が過度に広汎であるとか,あるいは不明確であるとして憲法21条1項,31条に違反するとはいえない。

4 小括

以上によると,前記のとおり解釈される本件各規定が,弁護人の主張する憲法の諸規定に違反するということはできない。

第6 本件公訴事実記載の日時場所における営業が3号営業に当たるか

1 認定事実

関係証拠によると,以下の各事実が認められる(なお,警察官らは,本件公訴事実記載の日時における本件店舗での営業内容を端的に立証する目的から動画を撮影していたことが認められるが,この動画は,公判開始前に消去されて現存しない。)。

(1)本件店舗内の設備  本件当時,本件店舗1階の北側には,東側から西側にかけて順にステージ,フロア,DJブースが設けられていた。DJブースには,その両脇に大型スピーカーが,上部にモニターが設置されており,ステージ側にもスピーカーが設置されていた。また,フロアは,東西が約10m,南北が約5mの長方形状の空間で,可動式の机が4点と,各机の周り等に可動式の椅子が複数設置されていたほか,天井の中央部にミラーボールが備え付けられていた。さらに,フロア出入口は酒類を提供するバーカウンターとつながっていた。

(2)本件当日の状況 ア 本件店舗では,本件当日,DJが選曲した英国のロック音楽を流す「ブリティッシュパビリオン」と題するイベント(以下「本件イベント」という。)が開催されていた。本件イベントの間,フロアでは絶えず大音量で音楽が流されており,曲によって差はあったものの,近くにいる人とも顔を近付けて話をしなければ声が聞こえないような状態であった。 イ フロアには,数点の小さな照明が点いていたほかはDJブース上のモニターからの明かりがあるのみで,近くにいる人の顔は見えるものの,少し離れた場所にいる人の顔は見えない程度に薄暗い状態であった。 ウ フロアでは,男女双方を含む約20人程度の客が立ったまま音楽に合わせて体を動かすなどしていた。具体的には,その場でジャンプしたり,音楽のリズムに合わせて左右にステップを踏んだり,ステップに合わせて手を左右に動かしたり,頭をうなずくように上下に動かしたり,膝を上下に曲げ伸ばししたり,左右の足を踏みかえたり,両足のかかとを上げ下げしたりするなどしていた。中には,ボックスステップを踏み,地面に手をつけた体勢から足を出したり,腰をひねったりして踊る者もいた。もっとも,客同士で体を触れ合わせるようなダンスをしている者はいなかった。 エ フロアにいた客は,ステージ側よりもDJブース側により多く集まっており,客同士の距離は,近いところでは約30cm程度であったが,客同士の体が接触しているような状態にはなかった。 オ フロアにいた客は,上記ウのとおり音楽に合わせて体を動かすなどしていたほか,椅子に座って音楽を聞いている者もいた。また,バーカウンター等のフロア以外の場所に設置してある椅子に座っている客もいた。 カ バーカウンターでは,酒類を含む飲食物が提供されており,フロアにいた客にも飲酒をしている者が多数いた。

2 前記第4で論じた解釈を踏まえた検討

前記認定事実によると,本件イベントにおいて客がしていたダンスは,流れていた音楽のリズムに合わせてステップを踏んだり,それに合わせて手や首を動かすというものが大半であり,比較的動きの激しいものでもボックスステップを踏んだり腰をひねったりするという程度で,客同士で体を触れ合わせて踊っていたこともない。したがって,客のしていたダンスそれ自体が性風俗秩序の乱れにつながるような態様のものであったとはいえない。また,DJブースやモニターがあったフロアでは,DJが英国のロック音楽を大音量で流すとともにこれに合わせてモニターに映像が流され,客を盛り上げるような演出を行っていたこと,その結果,フロアにいた客はDJブースの側により多く集まり,近いところでは客同士が30cm程度の距離にあったことが認められるが,客同士が接触するような状態には至っておらず,フロアでもその時々によって椅子に座って音楽を聞いている客もいたというのであるから,単に音楽や映像によって盛り上がりを見せていたという域を超えていたとは認めることができない。そのほか,本件イベントにおいて,来店する客に露出度の高い服装の着用を促すなど,殊更にわいせつな行為をあおるような演出がされていたなどの事実は認められない。  以上の事実を総合すると,酒類が提供されており,フロアが相当程度暗い状況にあったことを踏まえても,本件当日,本件店舗において,歓楽的,享楽的な雰囲気を過度に醸成し,わいせつな行為の発生を招くなど,性風俗秩序の乱れにつながるおそれが実質的に認められる営業が行われていたとは,証拠上認めることができない。  そうすると,被告人が,本件公訴事実記載の日時場所において,本件各規定の構成要件に該当する行為,すなわち3号営業を無許可で営んだということはできないというべきである。

第7 結論

以上によると,被告人が,本件公訴事実記載の日時場所において,本件各規定の定める構成要件に該当する行為に及んだとの事実を証拠上認めることはできない。  よって,本件公訴事実については,犯罪の証明がないことになるから,その余の点について判断するまでもなく,刑事訴訟法336条により,被告人に対し,無罪の言渡しをする。 (求刑懲役6月及び罰金100万円)

平成26年5月2日

大阪地方裁判所第5刑事部

裁判長裁判官 齋 藤 正 人

裁判官 坂 口 裕 俊

裁判官 長 橋 正 憲

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